最終更新日:2024年3月12日
U099
日本近現代文学講読Ⅲ
夏目漱石の『こころ』を読む単位条件
通信 2単位教員
履修条件
なし
到達目標
以下の教養的な認識に到達することを仮想理念として掲げる。
1.文学は文学だけの事象ではなく、特に絵画、神話、宗教、哲学等と境界を接している学問であること
2.テクストをいかに読むか、その余白の見つけ方、解釈の仕方
3.文学史が流布させた、自己中心主義的な狭い視点から抜け出すこと
学習成果
今日までの日本における『こころ』論がいかなる性質のものであったのか、それについての全体的把握をめざす。と同時に、文学テクストを現代の哲学や思想に内包された論理や概念を駆使して読むと如何なる新しい発見がありうるのかを、実際に体験し、文学テクストを読む喜びと興奮を味わうことができるようになる。また、文学テクストを如何に読むか、その手法を身につけることもできる。
テキスト教材
夏目漱石『こころ(文庫版)』(岩波書店)
参考図書
『心をよむ難しさ──漱石の「こころ」を読む』(角川書店)
『日本研究 28号』(国際日本文化研究センター紀要)2004〔ネット閲覧可能〕
評価の要点
1.課題テクストを読む誠実さ(テクストの隅々まで読んでおくこと)
2.テクスト解釈の方法・理論・力量
3.テクスト解釈に忠実であること(作品の時代背景・作家の伝記的事実の水増し的堆積は極力避けること)
4.資料・引用・注・参考書(必須)
5.文体(書く行為における職人的な性質・慣れ・滑らかさ・軽快さ)
評価方法と採点基準
レポート合格後の科目終了試験で評価します。
◆S〜Dまでの五段階評価
履修上の注意事項や学習上のアドバイス
◆レポートを書く前に、森に入って切れ枝を集めるように、あるいは田んぼで落穂を拾うようにたくさん収集して自分の知識と教養の蔵を一杯にしてから、おもむろにゆったりと快楽を覚えながら筆を取り上げること。
レポート課題
提出数 2第1課題
いずれか1設題を選択
第1設題
『こころ』の中に書きこまれたさまざまなフィクション空間(海・田舎・墓地・住まい・夜行列車等)について、構造と空間という関わり合いの中で具体例を挙げながら自由に論じなさい。
第2設題
『こころ』を博物館の展示室と見立てた場合、そこにはさまざまなオブジェが展示されているはずである。構造とオブジェという視点で、それらのオブジェがフィクション空間で果たす役割・機能について自由に論じなさい。
第2課題
いずれか1設題を選択
第1設題
『こころ』に描かれた恋愛は、西洋の恋愛(たとえば、ロマン主義的な恋愛等)とはどういう点で根本的に性質を異にするものなのか、それについてなるべく倫理道徳的な言説を避けて論じなさい。
第2設題
「恋愛が罪悪」なのはなぜか、生きることと恋愛をすることとの関係を考慮に入れたうえで、『こころ』というテクストの有する志向性(作家漱石の意識や認識に関わる志向性ではない。)に基いて自由に論じなさい。
備考・補足
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授業回数別教育内容 | 身につく資質・能力 | 学習範囲 (予習・復習を含む) |
|
◆前期講義内容についての言及 ◆『こころ』論の現在とテクストの神話化 |
漱石文学への理解 | テクスト全体 | |
◆水上の儀式1 ◇海辺(神話的空間)と遭遇 ◇エリアーデ・浸礼・洗礼・再生 |
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◆水上の儀式2 ◇贖罪の文学と文学的贖罪 ◇横たわることと起き上がること |
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◆遍在する垂直運動1 ◇眼鏡の落下 ◇帽子の落下 ◇木葉の落下 |
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◆遍在する垂直運動2 ◇サッフォー・オフィーリア・那美・美禰子 |
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◆三つの死の儀式1 ◇鎌倉の海での死(洗礼) ◇卒業祝い(最後の晩餐)での死 |
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◆三つの死の儀式2 ◇植木屋での死 ◇『創世記』の次元での死 ◇イサクの供犠 |
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先生の死と父の死1 ◇都会の死・田舎の死 ◇死の前景化と死の背景化 ◇郵便制度と遺書 |
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◆先生の死と父の死2 ◇出来事としての死・予示としての死 ◇個体の死・終焉なき死 |
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◆書簡体という構造1 ◇18世紀と書簡体小説 ◇心情吐露と真実 ◇告白と性(フーコー) |
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◆書簡体という構造2 ◇自己弁明と自己保存 ◇理性と主体・感情と主体 ◇ニーチェと衝動と人生の書 |
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◆恋の階段・恋と罪悪1 ◇プラトン・ギリシア・同性愛 ◇道徳・罪・良心・ハイデッガー ◇恋と生の強度 |
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◆恋の階段・恋と罪悪2 ◇神の死・人間の死 ◇告白・ルソー・住めない主体の家 |
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◆遺書ー折り畳まれた心1 ◇求心的な述辞ー畳む・巻く・包む ◇遠心的な述辞ー伸す・開く・展開 |
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◆遺書ー折り畳まれた心2 ◇心臓ー生のポンプ ◇心ー生の書き込み用紙 ◇心臓を断ち割る・遺書を引き裂く |
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